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慶應義塾大学アート・センターのお知らせや、活動のレポートをお届けします


展覧会「信濃町往来――建築いま昔」レポート

概要・目的

アート・センターでは2009年より、「塾内建築の記録資料整備」および「塾内(塾生・塾員・教職員)への情報発信・共有」を二つの軸とする「慶應義塾の建築」プロジェクトに取り組んでいる。このプロジェクトに蓄積された建築の記録資料に基づき、建築物のアート・リソース化に関する試みとして、慶應義塾信濃町キャンパス(医学部)での写真展を企画した。

本展覧会は、医学部を中心とした信濃町キャンパスに存在する/かつて存在した、貴重な建築の外観や内観を記録した写真の紹介を中心に企画された。現在、新規建築事業が進む中で変貌をとげようとしている信濃町キャンパス内において、学生や教員、OBOGや来訪される方々が、ありし日の建築の姿や現在まで変わらずその内部で時を過ごしている建築を、写真というメディアを通じて鑑賞してもらう、という試みである。建築は、日々その姿を目にし、また、その中でさまざまな生活を送ってきた「記憶」を呼び覚ますものであり、「場所」と建築的記憶を展示を介してつなげることを目的として本展は企画された。重要な点は「場」であると考え、ある建築が存在した「場」で、すでに取り壊されてしまい現在では見ることのできない当該建築の写真を展示することとした。

アート・センターにすでに蓄積されている、プロ写真家が撮影した建築写真のほか、ありし日の建築がよみがえる創設時期の写真や図面などをパネル等で展示し、解説冊子を作成した上で、展示を目にする人々によりいっそう、塾内建築に文化的価値を見いだす機会を提供した。

 

実施内容

展覧会名:慶應義塾の建築プロジェクト 「信濃町往来――建築いま昔」展

会期:2017年12月9日 - 2018年3月31日

開催場所:慶應義塾大学(信濃町キャンパス)、総合医科学研究棟(エントランスおよび

ラウンジ)

展示内容:(fig.13, 14, 15, 16)

[大サイズカラー写真]

  • 総合医科学研究棟外壁面 22枚 (サイズ 縦1800 x 1350mm)
  • 統合医科学研究棟入口脇  1枚 (サイズ 縦1390 x 2090mm)
  • ラウンジ ガラス壁面用  8枚 (サイズ 縦1200 x 2000mm)
[小サイズカラー写真]
  • ラウンジ 室内ガラス面 110枚(サイズ 2L)
[小サイズ白黒写真]
  • ラウンジ 室内ガラス面  11枚 (サイズ 2L)
[建築図面デジタルデータ]
  • ラウンジ 室内ガラス面  2枚(サイズ A2)
 

写真展示の対象となった建築物:竣工年を( )で記す。
  • 予防医学校舎(1929)病院別館(1933年)北里記念医学図書館(1937年)6号棟(1953年)
  • 7号棟(1954年)白梅寮(1957年)犬舎(1959年)中央棟(1963年)臨床講堂(1969年)
  • 包括医療センター(1971年)
上記の内、現存する建物は予防医学校舎と北里記念医学図書館の2つとなっている。

 

成果

折しも医学部創設100周年の年になった2017年に、信濃町キャンパスでの展覧会を開催できた点で、意義があったと言える。なぜなら、創設100周年を機に新病院棟などの建設が始まり、この数年でいくつかの建造物が取り壊されたからである。「慶應の建築プロジェクト」はこれまで、各地にあるキャンパスに存在する建築や、一貫校にある建築を撮影し、その写真および図面をデジタル化してきた。その数は30件以上の建物におよぶ。それらの写真資料はまさに「アート・リソース」から創出された更なる「リソース」である。リソースをアーカイヴすることの本来的な意味は、このように新たな価値を創造する土壌として、常に進行形であることだと考えてさしつかえないだろう。その意味で今回の展覧会は「アート・リソース」を重層的に活かすことができた点で新たな意義を獲得した。

本展覧会が果たす役割としてわれわれが目指していたのは、建て替えが進み、失われてゆく建築をどのように記録化し人々の記憶にとどめてゆけるのかという点である。記憶を呼び起こす契機として、その建築がかつて「存在した」場所で展示することで、「かつての/現在の」ユーザー・マインドに立脚した展示を行えたことで、この目標は達成されたと言えよう。

また展覧会に関連して、北里記念医学図書館において小展示を開催してもらう協力を得た。記憶と場所を結びつける、よすがとしてのキャンパス生活を資料から鑑賞できるようにと、「信濃町往来――卒業アルバムの風景」とのテーマで、図書館が所蔵する第一回生からの卒業アルバムを図書館2階講堂前のロビーにて展示した。ロビーには昭和29年の「鳥瞰図」が常設で掛けられており、鑑賞者はまた異なる視点からキャンパスの変遷をたどることが可能となった。さらにエントランスには展示ケース内に杉田玄白没後200年(2017年)を記念して、図書館所蔵の貴重書、大鳥蘭三郎先生旧蔵の『解體新書』、藤浪剛一先生旧蔵のオランダ語版『ターヘル・アナトミア』など医学部や杉田家ゆかりの書物を展示した。

今回の「信濃町往来――建築いま昔」展は、大サイズの写真を建物外壁に貼り、道を往来する人々にも鑑賞してもらう点でユニークな展示と言うことができる。つまり入場無料の、開館時間もキャンパスと校舎の開館に準じた、極めて自由な鑑賞を促す展示である。設営時から、往来する人々が関心をもって眺めている姿が多く見受けられたが、展示後も、普段は何もないガラス窓に巨大な写真プリントが展示してある様子に、そこここで人が立ち止まり、興味深く写真やキャプションを見ている様子が観察された。

それだけ人々の注意を引いた展示であったためか、とりわけ医学部内での評判がよく聞こえてきており、大学内の「アート・リソース」である建築とそこで過ごした/過ごしている人々の記憶と、建築を接続する試みが一定の効果を生んだと言うことができる。そこから波及した事象として、「慶應医学賞」(1996年より年一回授与。世界の医学・生命科学の領域において、医学を中心とした諸科学の発展に寄与する顕著、かつ創造的な研究業績をあげた研究者を顕彰するもの)のポスターデザインにこの写真を使用したいという申し出があり、実現したほか、新病院棟の完成式典の際にも、式典会場エントランスにて写真のパネル展示が行なわれた。医学部長をはじめとする大学内の人々からは、殺風景であった構内に芸術作品が展示されたことで、学生や教職員の感性になにがしかの効果が表れることを期待する声が届いている。

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